雇用調整助成金をフル活用せよ!


4月7日に日本政府から緊急事態宣言が出されましたが、これによって日常の経済活動は今まで以上に停滞する事が予想されます。特に飲食業や小売業へは客の足が遠のき、一層厳しい状況となりそうです。緊急事態宣言が出される前から既に海外からの渡航者の隔離、入国禁止等の措置が取られており、インバウンド需要で成り立つホテル業界は既に壊滅的なダメージを受けています。また、それを裏付けるかのように、本日4月9日には、日本銀行から地域経済レポート(通称”さくらレポート”)が公表され、日本全地域で経済への下押し圧力が強まったと結論づけました。

このような厳しい状況の中、資金繰りのために人件費の削減が急務となる中小事業者(特に、ホテル、小売り、飲食)が非常に多いかと思いますが、本記事ではそのような中小事業者が最大限活用すべき”雇用調整助成金について整理しました。これを上手く活用すれば、従業員に休業手当を出しつつも、事業者が雇用調整助成金を政府から受領する事で、従業員と事業者双方の負担が無い形で雇用調整する事が可能になります。苦しい中小事業者の皆様、是非ご活用下さい!そして、従業員の皆様も、こちらの情報を雇用主に伝える事で、双方が納得する形で、従業員休業という形を取ることができます!


厚生労働省から引用

雇用調整助成金制度は元々存在している制度であり、厚生労働省の管轄になります。今般の新型コロナウィルスの蔓延により、新たにこの雇用調整助成金制度に”特例措置”が設けられました。そしてさらに、緊急を要するため、新たに”緊急対応期間中の特例措置”が設けられました。整理しますと、1) 平時、2) 特例措置、3) 緊急期間特例措置、の3つ雇用調整助成金制度が併存している状況になります。上図は正にこの3つの措置要旨を左から順番に並べて、最後にリーマンショック時の措置も付け加えて比較しています。今回は、現時点で正に申請可能で、一番条件が緩和され助成額も大きい雇用調整助成金の”緊急期間特例措置“について説明していきたいと思います。尚、平時の詳細はこちらの雇用調整助成金ガイドブックに網羅的に記載があるので、特例措置として変更された事項に注意して社労士との協議等に是非お使い下さい。

緊急期間と助成金受領までの流れ

緊急期間とは2020年4月1日から2020年6月30日までの間になります。この間に発生した(申請では無い)雇用調整に関しては国から好条件の助成金を受領する事ができます。もちろん2020年6月30日以降も助成金の申請と受領は可能ですが、条件が緊急期間よりも若干悪くなります。雇用調整助成金を受領するまでの流れは下のチャートの通りで、

  1. 雇用調整計画の届け出
  2. 雇用調整の実施
  3. 助成金支給申請
  4. 労働局での審査
  5. 助成金の支給

というのが通常のプロセスになります。

雇用調整助成金ハンドブックから引用


上記では通常のプロセスと言いましたが、通常ではないプロセスとして非常に重要なポイントは、なんと、この雇用調整計画届出は事後での届出が認められている、という点です。従って、本日(4月10日)以降でも4月1日からの雇用調整計画を届け出る事ができ、その後に4月1日からの分に遡って雇用調整助成金の申請と受領をする事ができます

計画届や支給申請をどのような頻度で行うかは事業主が選択できるようになっています。頻度の最小単位は判定基準期間でなくてはならず、基本的に毎月の賃金の締切日の翌日から次の締切日までの一か月間となります。例えば賃金が月末締めの事業者の場合は、4月1日~4月30日が最初の判定基準期間、5月1日~5月31日が次の判定基準期間、6月1日~6月30日がさらに次の判定基準期間、といった具合です。この場合、下記のどちらのやり方でも問題ありません。

  • 4月1日~4月30日までの計画を4月10日に届出て、5月1日に4月分の支給申請を行う。同時に5月1日に5月1日~5月31日までの計画を届出て、6月1日に5月分の支給申請を行う。そして、同じく同時に6月1日に6月1日~6月30日までの計画を届出て、7月1日に6月分の支給申請を行う。
  • 4月1日~6月30日までの計画を4月10日に届出て、7月1日に4月~6月の3か月分の支給申請を行う。

尚、審査には1か月ほど時間がかかりますので、上記の上段の例だと4月分が5月末に、5月分が6月末に、6月分が7月末に支給され、下段の例だと4月~6月の分がまとめて7月末に支給される形になります。

利用可能事業者及び支給対象となる雇用調整

利用可能事業者は下記の要件を満たす必要があります。

  • 新型コロナウィルス感染症の影響を受けている事
  • 売上高または生産量などの事業活動指標の最近1か月の実績が前期同期比で5%以上低下(緊急対応期間外は10%以上低下)している事
  • 従業員の休業、教育訓練、第三者への出向を実施する事で雇用調整を行う事。上記雇用調整に対して過半の従業員の書面による同意がある事
  • 休業及び教育訓練の場合は、月間休業等延日数 / 月間所定労働延日数が中小事業者で20%以上、その他事業者で15%以上となる雇用調整規模である事(中小事業者の定義は下図の通り)
雇用調整助成金ハンドブックから引用

尚、上記雇用調整が行われる従業員側でも、従来は雇用保険被保険者であり、かつ被保険者期間が6か月ある事が必要であったが、今般の新型コロナウィルスに係る特例措置では、雇用保険被保険者でない労働者の雇用調整も事業者への助成金の対象に含まれるため、事実上、事業者に労働役務を提供している者すべてに対する雇用調整に関し事業者が助成金を受領する事ができる事になりました。

要件はたったこれだけです!これだけさえ満たせば政府から助成金を受領する資格があるんです!ですので事業者の皆様には決して従業員の解雇はしないでいただきたいです。解雇せずに従業員を休業等で休ませても日給の最低60%分の休業手当は支払う必要がありますが、その分政府からの雇用調整助成金が受け取れるので、事業者にとっての負担は確実に軽減できます。従業員も雇用を維持したまま休業手当も受領できるので、家族の生活を維持する事が可能です。何よりも、苦しい時に事業者が守った従業員はその恩を忘れません。最悪期を脱して平常運転、さらには事業拡大する際には、事業者のためにすぐに活躍してくれる事でしょう。

助成金受給額の具体的な計算

では、一体どの程度の金額を受給できるか?基本的には日額で設定されており、これに延休業日数等を掛ける事で合計受給額を計算する仕組みになります。まずは日額の部分について、休業と教育訓練2パターン雇用調整方法ごとにそれぞれ以下のように整理しました。

休業

休業手当額に助成率である4/5(中小事業者)または2/3(その他事業者)を掛けた額となるが、解雇を一切行わない事業者の場合は、助成率が9/10(中小事業者)または3/4(その他事業者)となります。但し、注意点は、これは緊急期間(2020年4月1日~6月30日)のみの好条件である事です。2020年6月30日以降は助成率が2/3(中小事業者)または1/2(その他事業者)となります。緊急期間中限定とはいえ、中小事業者が解雇をしなかった場合の9/10の助成率は物凄いですね!従業員に支払う手当の9割も助成してくれるので、活用しない手はありません。

休業手当の計算方法ですが、これが少し複雑で、前年度の従業員の平均賃金額に休業手当の支払率を掛ける事で計算されます。具体的の事例を雇用調整助成金ハンドブックから抜粋して下記説明したいと思います。

雇用調整助成金ハンドブックから引用


上図のように、まず前年度の総支払賃金が483,566,000円であったとします(1)。次に前年度の毎月の従業員数の月平均を算出します。上図の例だと340人になります(2)。さらに前年度の年間所定労働日数を計算します。年間所定労働日数は一般的に労働協定等で定められている所定労働日数の従業員タイプごとの加重平均ですが、例えば上記例だと、70 名が252日、250名が264日だと261日と計算できます(3)。尚、一般的には下図のように所定労働日は月曜から金曜、所定休日は土曜と日曜と定められているケースがほとんどだと思います。

雇用調整助成金ハンドブックから引用

そして、(1) / (2) / (3)を計算する事で前年度の平均賃金額が5,450円 / 人 / 日と計算されます(4)。こちらに休業手当支払率を掛ける事で最終的に従業員を休業させた場合に支払う1日当たりの休業手当額が計算されます。例えば、休業手当額が85%の場合は5,450円×85% = 4,633円 / 人 / 日と計算されます。尚、休業手当支払率は、労働基準法第26条によると、”使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。”とありますので、60%以上である必要があります。

続いて、助成されるのは既に説明しました通り、緊急期間で解雇が無い中小事業者に対しては90%となりますので、4,633円×90% = 4,170円 / 日 / 人と助成額が計算される事になります。尚、助成額は雇用保険基本手当日額の最高額である 8,330円 が上限として設定されていますので、給与が高い事業者の場合は従業員を休業させて休業手当を支払っても90%も助成されない可能性がありますがほとんどの中小事業者は問題ないのではないでしょうか。

教育訓練

職業訓練の場合も休業に似ています。基本的に前年度の平均賃金に教育訓練手当の支払率を掛ける事で事業者が従業員に支払う教育訓練手当が計算されます。この教育訓練手当に対する助成金の助成率も休業の場合と同じになります。但し、休業との違いもあり、主には下記の2点になります。

  • 教育訓練手当の支払率は、就業規程に別段の定めが無い限り基本的に100%
  • 教育訓練を実施した場合は、 さらに訓練費として、1人1日当たり 1,200 円 が助成金に加算される(教育訓練の加算額は助成金の上限額8,330円に含まれない)

休業と同じ例を用いると、教育訓練手当は前年度の平均賃金と同じ5,450円 / 人 / 日であり、緊急期間で解雇が無い中小事業者に対しては90%の助成率となりますので、5,450円×90% = 4,905円 / 日 / 人と助成額が計算される事になります。ここにさらに1,200円が加算されるので実質6,105円 / 日 / 人が最終助成額となります。この例では教育訓練の方が助成額が休業よりも大きくなりますが、前年度の平均賃金、休業手当支払率によってその逆のパターンもありますので、各々の事業者が試算等を通じて最適な雇用調整計画を練る事が大事になってきます。

雇用調整助成金支給申請書、及び雇用調整助成金額算定書の記載例

ここでは雇用調整助成金ハンドブックから抜粋して、雇用調整助成金支給申請書(休業及び職業訓練)、及び雇用調整助成金額算定書の記載の具体例を載せたいと思います。記述の説明でも使用させていただいた事例を記入方法コメント含めて細かく説明がありますので説明よりも読んでもらうのが一番だと思います。但し、一点だけ注意しなければいけないのが、雇用調整ハンドブックは緊急期間の特例措置をまだ反映させていない事です。こちらの特例措置が適用される事を念頭に雇用調整計画の策定、社労士との協議を是非進めて欲しいと思います。

雇用調整助成金(休業)支給申請書(雇用調整助成金ハンドブックから引用)
雇用調整助成金(職業訓練)支給申請書(雇用調整助成金ハンドブックから引用)
雇用調整助成金額算定書(雇用調整助成金ハンドブックから引用)

  • Kufong
  • 上海生まれ、日本育ち、米国留学、マレーシア駐在を経て、現在妻と一人娘と一緒に東京で楽しく生活。不動産、資産運用、グルメ、旅行が大好き。金融工学修士修了、CFA (Chartered Financial Analyst)。