高配当銘柄:ウェルタワー【WELL】(2020年4月27日時点)


米国高配当株式シリーズ、続いてはウェルタワー(証券コード【WELL】)について。

下記目次で見ていきたいと思います。


ウェルタワーはヘルスケア投資法人(REIT)

まず、重要なポイントとして、ウェルタワーはいわゆるリート = 不動産投資法人になります。投資分野はヘルスケア関連の不動産なので、分野としてはヘルスケアリートに分類されます。リートについては約一年前にマレーシアのリートについて記事を書きました。銘柄と国は違いますが、仕組の説明は共通していますのでリートの説明はこの記事では省略します。

マレーシアのREIT(M-REIT)について

YTL Hospitality REITへ投資してみよう


直近四半期決算(2019年12月期)での保有資産投資簿価は円換算で約3兆円超米国最大のヘルスケアリートになります。米国最大なので恐らく世界最大でもあると思います。ちなみにS&P500採用銘柄にもなっています。

ウェルタワー(Welltower)と同じヘルスケアリートにはヴェンタス【VTR】やヘルスピーク・プロパティーズ【PEAK】などがあり、ウェルタワーの競合となっています。

2020年4月24日の株価終値が44.06ドル、時価総額は180.9億ドル(約1兆9,500億円)ですが、これは新型コロナウィルスの影響が懸念され直近で一気に株価が下落した結果です。下落前は最高93.17ドルまで到達しています。今は半額以下にまで下落してしまっている状態ですね。

Yahoo Financeから独自作成


直近12か月の配当金額は一株当たり3.48ドルなので、2020年度も同様の配当金額を前提にすると、2020年4月24日現在で配当利回りはなんと7.9%!配当金額と株価の推移は下記のチャートの通り。

Yahoo FinanceとWelltower IR資料から独自作成


ウェルタワーはESG(環境・社会・ガバナンス)への貢献にも非常に熱心で、下記のような業界団体・政府・パートナー企業からの数々のアワードを受賞しています。

Welltower IR資料から抜粋


直近2020年4月にはウェルタワーは2年連続でEnergy Star Partner of the Yearアワードを受賞しました。 このアワードは政府関連機関から授与されるもので、非常に権威が高く、大手企業による取引先認定、資産運用会社による銘柄選定などの基準として幅広く使用されています。

ウェルタワーによるEnergy Star Partner of the Year 2020の受賞に関する記事


高齢化進行で成長が期待される市場

米国における80歳以上の高齢者数の実績と予測が下記チャートで、横軸が年、縦軸が百万人単位の人数を表しています。2019年までは実績、2020年以降が予想になります。

2019年12月時点で、米国における80歳以上の人口は1,290万人ですが、これが2024年には1,510万人に、2029年には1,890万人となる予定です。これは米国政府の正式な予想で、かつ基本的に人口動態の予想は前提となる変数の著しい変化が無いため、かなり正確に行う事が可能です。

そう、今後10年で約1.5倍にも増えます!超高齢化が今後米国で急速に進展する事はもう確定しています。

明らかに2019年以前の傾斜とは違って増加スピードが増す事が見て取れますね。増加率で途中2か所の山がありますが、これは過去のベビーブーマー世代という、戦後間もない時に大量に生まれた米国人が80歳をむかえるタイミングを表していると考えられます。

Welltower IR資料から抜粋


次のチャートは年代別の一人当たりの年間ヘルスケア支出を整理したものになります。横軸が年代、縦軸がその年代集団の中での一人当たりの年間ヘルスケア支出です。

真ん中は米国の全年代の平均になっており、これは8,000ドル、日本円換算で約85万円ですね。当然若いほどヘルスケア支出は少なく、18歳までで3,700ドル(約40万円)、19歳から44歳までで4,900ドル(約53万円)といった具合です。

一方、高齢者になると劇的に増加し、65歳から84歳までで17,000ドル(約182万円)、85歳以上に至っては32,900ドル(約350万円)にまで増加します!85歳以上は米国平均の4.1倍もヘルスケアの支出がある(支出しなければいけない)事が分かります。

Welltower IR資料から抜粋


診療や薬代といった狭義のヘルスケア支出に加え、社会福祉であるソーシャルケア支出も含めた広義のヘルスケア支出のGDPに対する比率はどうでしょうか。下のチャートの左側はOECD先進各国の広義のヘルスケア支出(狭義のヘルスケア支出とソーシャルケア支出の内訳あり)のGDP比率になります。

米国は先進国では狭義のヘルスケア支出が一番高い一方、ソーシャルケア支出は一番少ない事が分かります。

次に、狭義のヘルスケア支出GDP比率と平均寿命を各国でプロットしたのが下の右のチャートになりますが、見事に米国は一番高い狭義のヘルスケア支出GDP比率であるにもかかわらず、平均寿命は一番低くなっています。

これらから推察されるのは、ソーシャルケア支出GDP比率が高い方が平均寿命は高くなる傾向があり、従来米国でフォーカスされていた狭義のヘルスケアから、今後はソーシャルケアにより力を入れた広義のヘルスケア支出を高める事が重要かつトレンドとなるという事ではないでしょうか。

Welltower IR資料から抜粋


投資ポートフォリオとその分散

ウェルタワーは基本的に次の5つの用途カテゴリーのヘルスケア関連不動産へ投資を行っています。

1) シニア住宅(運営委託)= Senior Housing Operation
2) シニア住宅(運営会社へリース) = Senior Housing Triple-net
3) 外来患者向け医療施設 = Outpatient Medical
4) 医療サービス施設 = Health System
5) 長期・急性後慢性治療施設 = Long-Term / Post-Acute Care

下のチャートが用途別の物件数とNOI (ネット営業利益)の内訳になります。NOIベースではシニア住宅が63%を占めますが、数年前までは80%程度も占めていました。ウェルタワーはシニア住宅に依存し過ぎないポートフォリオ構築、またソーシャルケアへの支出増のトレンドを見込み、外来患者用医療施設、医療サービス施設、長期・急性後慢性治療施設への投資を加速させる事をマネジメント層が明言しています。

Welltower IR資料から独自作成


運営委託先・テナント先であるパートナー企業別ではどうでしょうか。下記は運営・テナントパートナー先のNOI上位12社についてのチャートです。一番左のSunrise Senior Living North Americaが最大の運営委託パートナーですが、NOI比率は12%程度となっています。上位12社(運営委託もリースも含む)全部合わせてもNOIは50%程度にしかならないため如何に運営委託先・テナント先が分散されているかお分かりいただけるのではないでしょうか。一番右のRemainingはその他先という意味ですが、その棒グラフの高さからも一目瞭然ですね。

Welltower IR資料から独自作成

では、国別ではどうでしょうか。下記チャートの通り、これは米国が大部分を占めていますね。米国のリートなので仕方ないかと思いますが、英国でも今後積極的にM&Aや物件投資を進める方針のようです。

Welltower IR資料から独自作成


最後に都市別を見ていきましょう。下記がNOIが大きい上位20都市のチャートになります。運営委託・テナントパートナー先以上に分散が図られていますね。一番NOIが大きいニューヨークでも7.9%で、上位20都市合計でも48%程度です。これはRemaining(その他)の高い棒グラフからも一目瞭然です。自社投資物件同士が競合しない、各都市の需要が見込める最適な場所にある物件に投資するというウェルタワーの基本的な戦略が見事に見て取れます。

Welltower IR資料から独自作成


ちなみにウェルタワー投資のシニア住宅(運営委託、リース両方含む)がある都市をプロットしたのが下の図になります。米国では人口が上位の25の都市に比較的集中しており、シニア住宅のNOIの78%をそれらの都市が占めます。中西部が少ないのですが、これは土地が広大で、人口が特定の都市にあまり集約されていないからマーケットとしては後回しにされているためでしょうか。真相は分かりませんが、今後の人口移動次第では開拓の余地はありそうです。

英国はロンドン近郊と南地方がほとんどを占めますが、こちらも北中部やさらにはアイルランド等のマーケットも視野に今後入れていく事は可能ではないでしょうか。

Welltower IR資料から抜粋


投資先決定プロセス

ウェルタワーの投資意思決定は客観的なビッグデータに基づいた非常に綿密なものとなっているようです。勿論これらのデータは最初からあったわけではありません。下記のように人口動態、住宅市場、雇用、教育、ヘルスケア指数、人口予測、競合動向をリサーチ部隊が常に集め更新しています。これに加え、ウェルタワーの過去運営実績データ(稼働率、運営コスト、NOI等)も長年の投資活動から蓄積されており、合わせてビッグデータを構築している形になります。基本的にはこのビッグデータの分析を通じて客観的なデータドリブンな投資意思決定を行っているようです。

Welltower IR資料から抜粋


特にユニークで徹底的な分析ツールとして、上記ビッグデータから、住民がシニア住宅や医療施設で支払う能力があるかどうか、お金を支払ってウェルタワー投資先が提供するヘルスケアサービスを受けたいかどうかを、半径0.2マイル(約320m)の正六角形(ヘキサゴン)ごとに細かく分けて計算している点です。

例えば下記例だと、大都市であるニューヨーク市での分析結果ですが、青色の投資候補物件から5マイル(約8km)の自動車運転域内は赤色(支払い能力も支払いによってヘルスケアサービスを享受する意思も高く無い)のヘキサゴンエリアばかりなので、人口がそもそも多いニューヨーク市にある物件ですが、投資不適格の判定をしています。

Welltower IR資料から抜粋


一方で、次の例では、カンザスの地方都市ですが、投資対象物件周辺は緑色(支払い能力も支払いによってヘルスケアサービスを享受する意思も高い)のヘキサゴンエリアが多いので、投資適格の判定をしています。このように、従来の感覚に基づいた、大都市だから需要があるだろう、という非科学的な判断ではなく、ビッグデータに基づいた分析という客観的かつ合理的な科学的手法で投資判断を行う事で、投資を成功に導いています。

Welltower IR資料から抜粋


また、投資ポートフォリオとその分散の項でも述べましたが、下記チャートのように、シニア住宅の運営委託先・テナントの分散も図るように心がけています。横軸が急性度合い、縦軸が毎月の入居者から受け取る賃料です。当然急性度合いが高いほど7日24時間のケア、豊富なスタッフと医療機器、きめ細かいサービスが必要なので賃料は高くなりますが、このように急性度合い別にも上記のヘキサゴンエリアの定量分析をし、ポートフォリオ全体として急性度合いが異なる施設を運営するオペレーターの分散も図っています。

Welltower IR資料から抜粋


分散させた時の各オペレーター運営施設の提供可能延べ室数当たりのNOIの相関係数は下記のような結果になっているようです。正相関もあれば府相関もあり、全体として緑色の負相関が多く、分散効果が出ていると判断できます。

Welltower IR資料から抜粋


シニア住宅の運営委託と賃貸

ウェルタワーのNOIの63%を占めるシニア住宅とその運営について少し解説をしたいと思います。まず大きくシニア住宅の運営委託(NOIの43%)シニア住宅の運営業者への賃貸(NOIの20%)の2つ分ける事ができます。


シニア住宅の運営委託

スキームとしては、ウェルタワーがシニア住宅へ投資して不動産オーナーになると同時にウェルタワーが当該シニア住宅の運営も行います。但し、実際ウェルタワーはシニア住宅の運営のプロフェッショナルではない(あくまでプロフェッショナル投資家)ので、運営会社と運営委託契約をし、第三者の運営会社がそのシニア住宅を運営していく事になります。

この場合の収益の構造ですが、基本的に運営によって入居者から支払われる賃料やサービス料等の売上はすべてウェルタワーに入り、当該運営にかかる費用(運営スタッフ人件費、水道光熱費、機器・建物管理メンテナンス費、サービス提供原価等)もすべてウェルタワーが負担する形になります。

では、第三者の運営会社はどこで設けるかというと、運営によって受け取る売上比例のマネジメントフィー、及び運営GOP (グロス営業収益)に比例するインセンティブフィーをウェルタワーから運営手数料としていただく事になります。第三者運営会社は運営実績が悪ければ当然受け取れる運営手数料は減りますが、ゼロやマイナスになる事は絶対にありません。運営スタッフの人件費などの負担義務も無いので実質非常に低いリスクで運営受託している形にあんります。一方で、ウェルタワーに関しては、GOP-運営会社へ支払う運営手数料が収益になりますが、これは運営実績によって大きく変動します。従ってウェルタワーは運営に関するリスクをほぼ100%とっている形となります。

この運営リスクを100%とる形態の投資がNOIの43%も占めている事がウェルタワーの特徴ですが、これは運営が上手くいって成長している際はプラスに働き、逆の場合は非常に大きなマイナスインパクトを持ちます。新型コロナウィルスによる株価下落率が競合投資法人比で高いのは個人的には上記が大きく影響していると思います。

もちろんウェルタワーも現在進行形でこのリスクを少なくする努力(アップサイドの恩恵は残したまま)をしています。その一つが下記のRIDEA 3.0契約という新しい形態の運営委託契約です。具体的には、運営会社にも不動産の所有権を一部保有してもらい、オーナーであるウェルタワーと利益を一部マッチさせる事や、売上比例の運営手数料を無くし、利益指標であるNOI比例の運営手数料に一本化する事、さらにはNOIの平均成長率に基づいたインセンティブ運営手数料にする事、等です。ちなみにRIDEAとはREIT Investment Diversification and Empowerment Actという法律の略称で、この法律に基づいて下表の新しい運営契約ストラクチャーは許可されています。

Welltower IR資料から抜粋


個人的には上記の新しいストラクチャーの運営委託契約がどの程度の運営物件で適用されているか、今後適用される見込みか、料率などの詳細な条件はどうなのか、が非常に気になりますし、これらの内容が今後のウェルタワーの投資運営実績を大きく左右するキーポイントという理解です。しかし残念ながら、各種IR資料を参照してもさすがに契約内容をまとめた情報は見当たりませんでした。仕方ないですが、四半期決算ごとのConference Callで各証券会社のアナリストがウェルタワーに質問し回答してもらうしか方法は無さそうです。


シニア住宅の賃貸

他方、ウェルタワーはシニア住宅の運営会社への賃貸も行っています。このカテゴリーはNOIの20%を占めています。ここでいう賃貸は通常の賃貸契約では無く、いわゆるTriple-Net-Leaseの事になります。Triple-Net-Leaseの簡単な整理は下記の通りです。

  • 一棟まるごと全部貸出す(マスターリース)
  • 運営売上、運営費用等、運営に係るキャッシュフローはすべてテナントに帰属する
  • 上記に加え、通常不動産オーナーが負担すべき、固定資産税・都市計画税、建物保険料(火災や地震保険等)、建物修繕費用の3つ(Triple)もテナントが負担する
  • その代わり、テナントからの賃料は上記負担を考慮して通常の賃料よりは低くなる

この運営会社へのシニア住宅賃貸形態はウェルタワーにとってリスクが少なく、安定的な賃料収入を見込める一方、運営実績が良くてもそのアップサイドが享受できないデメリットがあります(運営実績が悪くてもダウンサイドは無いものの、その場合は運営会社の信用リスクの問題が生じる)。

なかなか開示資料では、今後ウェルタワーがこのTriple-Net-Lease形式のシニア住宅の賃貸を増やすのかどうか判断が付かないですが、市場では上記RIDEAの新運営委託契約が物件オーナーと運営事業者の利益を一致させるとして評価されているし推奨されているトレンドがある事からも、ウェルタワーは今後順次Triple-Net-Leaseの比率を減らしていくのではないかと個人的には考えています。ますます、運営というソフト面が今後は重要になっていくのではないでしょうか。

尚、RIDEAの新運営委託契約で運営している代表的なシニア住宅例としては下記のようなものがあるようです。さすが高級施設がメインのウェルタワーだけあって、豪華ですね。

Welltower IR資料から抜粋


医療関連施設のトレンド

ウェルタワーはシニア住宅の他、外来患者向け医療施設 = Outpatient Medical医療サービス施設 = Health System長期・急性後慢性治療施設 = Long-Term / Post-Acute Care、にも投資をしています。基本的にこれら不動産は施設運営事業者へマスターリースをし賃料収入を得る形です。

下記チャートをご覧ください。これは米国病院連盟発行の病院統計レポートのデータをベースにウェルタワーが整理したもので、1999年を基準としたときに、患者入院延べ日数と患者外来延べ回数の変化率を表示したグラフになります。患者の外来延べ回数が2016年時点で1999年比較で51%増加している一方、患者入院延べ日数は3%程度しか増加していないのが一目瞭然ですね。

Welltower IR資料から抜粋


“ウェルタワーはヘルスケア投資法人(REIT)”の最後でも取り上げましたが、米国はソーシャルケア支出の重要性を認識し、長期・急性後慢性治療施設を施策として拡充する方針です。これは既にみた平均寿命とソーシャルケア支出の相関関係の他に、入院延べ日数増に伴う膨大な支出の抑制医療保険をもたない国民への配慮医師・看護師の過労防止とより効率的な医療従事、等様々な事情が影響しているようです。

従って、今後はますます外来患者向け医療施設 = Outpatient Medical、医療サービス施設 = Health System、長期・急性後慢性治療施設 = Long-Term / Post-Acute Careの需要が高くなる事が予想される事から、ウェルタワーはこれら資産への投資を加速してNOIに占める割合を20%程度から2019年は37%にまで高めてきました(外来患者向け医療施設のみでは22%)。

ちなみに、Outpatientとは外来患者の事で、Outpatient Medical施設とは基本的には入院機能が無い外来診査にフォーカスするものと定義しています。また、外来患者向け医療施設が医療サービス施設や長期・急性後慢性治療施設も兼ねている場合も外来患者向け医療施設 = Outpatient Medicalとしています。

ウェルタワーが具体的なケーススタディで挙げているOutpatient Medical施設の一つに以下のMission Viejo Medical Centerがあります。

Welltower IR資料から抜粋


特徴としてはProvidence St.Joseph Healthが運営するMission HospitalとのJVで開発を行った事(2019年に既に完成済)、Mission Hospitalの直ぐ近くに位置する事、同時にMission Viejoのショッピングモールからも至近距離にある事です。

このように、ウェルタワーの医療施設への投資の傾向として、既存物件の取得よりも、大手病院グループとのパートナーシップを通じて、既存の入院施設がある病院のすぐ近くに外来患者専門の医療施設を開発する、点が挙げられます。実際の病院の外来患者専門医療施設のニーズをしっかり汲み取り、病院グループにもエクイティ参画してもらってJVで新たな施設を開発する事で、運営事業者との利害関係の一致、運営の最適化、テナントの施設完成前確保を実現しています。

また、下記のような開発中の別のケーススタディもあります。この例でも、Altium Healthグループのニーズをしっかりつかみ、彼らの既存病院(入院施設あり)の至近距離の5.5エーカーの土地に外来患者専門の医療施設を開発しています。Altium Healthグループへの引渡しは2020年第3四半期の予定ですが、引渡し同時に100%マスターリースの予定です。

Welltower IR資料から抜粋


医療サービス施設 = Health System、長期・急性後慢性治療施設 = Long-Term / Post-Acute Careは、下図のような入院施設のある病院からの患者のシフトの流れで需要が高まっている事は既に説明したかと思いますので、それぞれをもう少し具体的に説明したいと思います。

Welltower IR資料から独自作成


医療サービス施設 = Health Systemはより正確には医療サービスを提供するサービスプロバイダーの各拠点別のオフィスという理解になります。例えば、ウェルタワーが所有しているサービス付き高齢者住宅(サ高住と以後略する)を運営しているサ高住運営会社が特定の医療・介護・リハビリサービスをサービスプロバイダーに依頼する事になります。介護やリハビリならば介護士資格をもつ専門家が対象サ高住の比較的近くにいて通えなければいけません。また、例えば医療サービスならば医師の資格をもついわゆるpractitionerのオフィスが近くにある必要があるし、医師の処方箋をもとに薬をまとめて購入したり、保管するサービスも必要でしょう。

もちろんこれらのサービスプロバイダーはウェルタワーが投資した施設だけを対象にするのではなく、その他施設や個人のご自宅でサービス提供もしています。要はこれらのサービスプロバイダーのオフィスへの投資と当該サービスプロバイダーへのマスターリースという事になります。現在ここからのNOIはウェルタワーの全体の7%を占めています。

長期・急性後慢性治療施設 = Long-Term / Post-Acute Careに関しては、まさに上図の黄色の部分でニーズが高まっている施設になります。基本的には入院は必要無く、慢性的な病状で長期的な医療とケアが必要な人に対するケア施設になります。介護やケガによるリハビリセンターもこのカテゴリーに分類されます。今後高齢化がますます進行する米国にとって需要が高まる施設であり、米国政府もその拡大を後押ししています。現在これら施設のNOIはウェルタワーの全体の8%を占めています。

これら、医療サービス施設 = Health System及び長期・急性後慢性治療施設 = Long-Term / Post-Acute Careも広義のOutpatient Medicalとしては、ウェルタワーはこれらのNOI比率を一層高めていく方針です。


主要財務指標の考察と投資判断

損益計算書

まずは損益計算書から。下記が直近6年の損益計算書になります。リートの場合は資産の入れ替え(売却・購入)に伴う不動産売却損益や非キャッシュ項目である減価償却費などがそれなりの金額あり、損益計算書ではなかなか実態がつかめないという事情があります。ですので、後述するFFO(Fund From Operation = オペレーションキャッシュフロー)がより運営実績を表します。

Welltower IR資料から独自作成


とはいえ、上記損益計算書の中でも経常損益までは一定の実績評価に使用できるので(不動産売却損益やその他非経常項目を排除できるため)、主要項目だけを取り出して下記のように売上の構成要素(各種費用及び経常損益)を棒グラフ内で分解して時系列に表示してみました。

Welltower IR資料から独自作成


売上は順調に拡大していっていますね。そこは問題ないのですが、経常損益が安定しません。では費用に注目してみると、減価償却費も金利費用は売上に比例して増加しています。これは新規アセット購入に借入を使用している事とアセット増加に伴う減価償却費増で理解する事ができるので違和感は無いですし通常そうなるだろうなと思います。

個人的に少し問題だなと思うのは、施設運営費用の増加率です。上のグラフでは売上の成長率と施設運営費用の成長率をそれぞれ緑色と赤色の折れ線で表示しました。見てすぐ分かる通り、直近5年間、施設運営費用増加率が常に売上増加率を超過しています!特に2016~2018年は大幅超過です。なかなか、衝撃的な事実ですね。

何が起こったのか、原因の特定はなかなか難しいです。施設運営費用は人件費や水道光熱費が一般的には2大費用と言われています。これらのインフレが実際の入居者から受け取るフィーの成長以上に増加している懸念があります。または、アセット入れ替えにより、よりコストストラクチャーの高い施設が増えている可能性もあります。


FFO (Fund From Operation = オペレーションキャッシュフロー)

それでは続いてオペレーションキャッシュフロー(FFO)について解説していきます。下記が直近6年のオペレーションキャッシュフロー計算になりますが、基本的な考え方は一番上の行の純損益から非キャッシュ項目の調整を行い、さらには一時性の強い項目の調整もして(平準化項目)、平準化後のオペレーションキャッシュフローを計算します。分かりやすい例で言いますと、減価償却費はあくまで会計上の経年劣化による価値減少という概念に過ぎず、キャッシュアウトは全く生じていないので足し戻す、といった具合です。

Welltower IR資料から独自作成


平準化後オペレーションキャッシュフローは2016年まで増加し、その後少し落ち込んで2019年には直近6年では最大の金額のキャッシュフローになりました。傾向としては増加しているように見受けられますが、発行株式数も増加しているので、一株当たりキャッシュフローを計算すると実は2016年と2017年の方が2019年よりも高かった事が分かります。発行株式数が増加しているのはエクイティファイナンスで市場から資金を調達しているからであり、借入による調達と合わせてそのお金を新規投資に使用しています。新規投資しているにも関わらずオペレーションキャッシュフローはそれほど伸びていないな、というのが正直な感想です。

勿論、物件売却も進めており、その点を考慮しなければいけないので、後程、資産の収益効率についても考察します。つまり、物件購入と売却をネットして資産が増加(負債も増加)しているにも関わらず、オペレーションキャッシュフローが伸びていない場合は懸念があります。

ちなみに、配当性向は非常に高く、オペレーションキャッシュフローに対して85%前後となっています。リートの特性上、税務メリットを享受するために配当性向を高くしなければいけない事情はありますが、基本的には配当金は一株当たりオペレーションキャッシュフローの範囲内で行われ、その約85%と理解しておけば良いと思います。そういう意味でも一株当たりのオペレーションキャッシュフローが最も大事な指標であり注視する必要があります。2020年4月30日にウェルタワーの年次株主総会がありますので、新型コロナウィルスによる悪影響もある中、今後どのような見通しになるのか、しっかり経営陣のガイダンスや説明を確認すべきですね。


貸借対照表と資産キャッシュ効率

Welltower IR資料から独自作成

上の表が直近6年のバランスシートになります。2014年から2019年にかけて資産が約74億ドル増加しており、これを約50億ドルの負債増と24億ドルの株主資本増でファイナンスしている事が伺えます。リートが拡大していくためには、アセットを購入し続ける必要がありますが、そのファイナンスは基本的にデットファイナンスとエクイティファイナンスのどちらかです。当然、レバレッジには制限が設けられているのでデットファイナンスをある程度使用すれば、エクイティファイナンスも行ってデットエクイティレシオを下げていき、投資余力を持つ必要があります。利益剰余金が基本的にエクイティファイナンスでの余剰調達資金になりますが、2015年と2019年の株価が高いタイミングで比較的多くの金額をエクイティファイナンスしているため、新規発行株式数を抑えつつしっかり資金調達できている印象です。

FFO (オペレーションキャッシュフロー)の項目でも述べましたが、資産(資本)キャッシュフロー効率を考察するのは非常に大事ですので、下記に新たに作成した指標及び投資判断の表を載せてみました。

Welltower IR資料から独自作成


上の表で期中平均不動産関連資産(a)とオペレーションキャッシュフロー(c)の比が運用資産キャッシュフローリターンになります。この指標は投資資産残高を考慮に入れているため、投資資産のキャッシュフロー生成能力を表します。運用資産キャッシュフローリターンは2016年までは上昇して5.5%になった後は下落しており、2019年は4.8%となっています。

こう考えますと、直近3年間では新規投資先が投資額に見合うだけのキャッシュフローを生成できていないように思えます。投資対象先の物件価格が上がり過ぎた可能性もありますし、既に述べた施設運営費用がインフレの影響で想定以上に上昇している可能性もあります。もしくは、アセット入れ替えの一貫で売却したアセットのキャッシュフロー利回りがそもそも新規投資先よりも高い事も考えられます。この場合、アセットミックスが悪化するのにどうして売却する必要があったのかを検証する必要がありそうです。どれが原因なのか、どれも関係しているのかはアセット一つ一つの情報を見ていく必要がありますが、膨大な時間がかかるため本記事では省略させていただきます。

尚、2019年末で既にデットエクイティレシオは96%まで高まっており(これを100%以内に抑えるのが通常)、今後新規投資を実施するためには、既存アセットを売却するか、エクイティファイナンスの実施(その後にデットフィナンス)が必要になる事が想定されます。そこで、最後にエクイティファイナンス無し、既存アセット売却無しの前提で、現時点でウェルタワーに投資をすれば2020年末もしくは2021年第1四半期頃にはどのようになりそうか試算してみました。

Welltower IR資料から独自作成

上表の右の赤枠内の通り、2020年4月24日現在のウェルタワーの株価は44.06ドルになります。ウェルタワーが新型コロナウィルスの影響を受け2020年のオペレーションキャッシュフローは2019年の16.8億ドルから13.5億ドルに大幅減少したと仮定しましょう。これは下記リリースでもある通り、新型コロナウィルスの影響で運営費用が5%増加し、かつトップラインの稼働率が5%減少(売上5%減少)という想定になります。

ウェルタワーによる2020年4月17日付ビジネスアップデート

配当性向をオペレーションキャッシュフローの85%と固定し、投資家の配当利回り目線を5.0%と仮定して逆算すると(二つ上の表の加重平均配当利回りの直近6年の平均は約5.0%)、株価は56.5ドルになります。足元の44.06ドルと比べ28%高い水準になります。2020年の実績が大幅に悪化する前提でも合理的な株価水準は今より28%も上なんです!

要は、新型コロナウィルスによる悪影響を懸念した投資家によってウェルタワーは間違いなく売られすぎているんですね。私個人的にはこの考察はとても合理的だと思っていますので、こんなに安くなったウェルタワーは非常に投資を検討するのに値すると思います。4月30日の年次総会でのビジネスアップデートを確認後に特段想定以上にネガティブ材料が無ければ購入をする予定です。皆様も是非!では。


  • Kufong
  • 上海生まれ、日本育ち、米国留学、マレーシア駐在を経て、現在妻と一人娘と一緒に東京で楽しく生活。不動産、資産運用、グルメ、旅行が大好き。金融工学修士修了、CFA (Chartered Financial Analyst)。